ジョングルール・ボン・ミュジシャンでは、様々な中世・ルネサンス音楽のレパートリーがあります。歌曲のいつくかは、ダイレクトに歌詞内容がわかるように日本語詞も織り交ぜ、演奏に工夫を凝らしています。


<歌曲・器楽曲>

 舞曲(ダンス音楽)
中世の民衆音楽の中心は舞曲であり、その中から13~14世紀のエスタンピー、サルタレッロ、トロット、ドゥクチア等を取り上げます。ルネサンス期(15~16世紀)では、ブランル、パヴァーヌ、ガイヤルド等の舞曲の他、この頃盛んになって来た器楽曲も演奏します。>>サンプル音源「王のエスタンピー第7」(別窓でYouTube画面が開きます)



 トルバドゥール、トルヴェールの歌曲
11~12世紀中世フランスの歌人の恋愛歌は、既婚の高貴な貴婦人に対する報われぬ愛(=宮廷風の愛)を歌ったものであることが多く、その他にはパストゥレル(田園牧歌)や踊り歌(舞踏を伴う歌)などがあります。ベルナット・デ・ヴェンテドルンやマルカブリュ、アダン・ド・ラ・アルなどの作品。


 聖母マリアのカンティガ
13世紀末、スペインの王アルフォンソ10世(賢王)が編纂させたとされる民衆起源の歌を含む歌謡集。聖母マリアの起こした数々の奇跡を誉め讃えつつ、物語風に歌っていく形式が取られています。複数ある写本の中には美しいミニアチュール(細密画)の施されたものもあり、図像学的にも貴重。>>サンプル音源「聖母マリアのカンティガ1番」(別窓でYouTube画面が開きます)


 カルミナ・ブラーナ
各地の大学を渡り歩いていた放浪学僧ゴリアルド(ゴリアール)たちが、社会に対して抱いていた不満を歌った歌や、人間の素朴な欲望を礼賛する歌を含む、13世紀ドイツの歌曲集。フランスのトルバドゥールや、ドイツのミンネゼンガーの歌曲を替え歌にして(換骨奪胎して)作られている歌も多い。なお、カール・オルフの「カルミナ・ブラーナ」は、テキストのみを流用した全く別の音楽作品。>>サンプル音源「カルミナ・ブラーナ/来たれバッカス」(別窓でYouTube画面が開きます)


 モンセラートの朱い本
スペインのモンセラート修道院で発見された10曲の歌を含む歌曲集(14世紀頃成立)。聖職者が、巡礼者たちの歌唱向けに編纂したもので、数曲の踊り歌を含みます。実際の演奏(伴奏)にはジョングルールも参加したのではないかと思われます。


 ウプサラの歌曲集
スウェーデンのウプサラ大学で発見されたためこの名がありますが、実際はルネサンス期スペインの歌曲集(ビリャンシーコ集)。恋愛の歌、マリア賛歌などを含み、民衆生活を題材にした歌曲も多く、佳曲ぞろい。>>サンプル音源「Yo me soy la morenica(ウプサラの歌曲集)」(別窓でYouTube画面が開きます)


<語り物(ストーリーテリング)>

忘れられがちですが、当時のジョングルールは時には楽器の演奏を伴って語り物を演じていました。ジョングルール・ボン・ミュジシャンでは、様々な中世の物語に音楽を付け(オリジナルを含む)、日本語で上演しています。

 ロランの歌  
11世紀末頃成立のフランスの叙事詩(武勲詩=chanson de geste)。イスラムとフランスの戦いに題材をとり、壮烈な討ち死にをするロランの武勇を骨太に描いたもの。上演時間約20分。>>サンプル音源「ロランの歌(戦闘場面)」(別窓でYouTube画面が開きます)


 オーカッサンとニコレット
フランス貴族の若者オーカッサンとイスラム世界から奴隷として連れて来られたニコレット。全く境遇が異なるにもかかわらず深く愛し合う2人が、幾多の試練・冒険を乗り越え、まさに奇想天外な運命の導きにより、再び巡り会うまでを描く歌物語。 写本に歌の旋律が残されている大変貴重な例であり、語りの部分と歌の部分が交互に演じられたと考えられる。ただ、歌の旋律は一種類のみであり、延々と同じメロディーで歌っていったと思われる。本上演では、元の旋律を重視しつつも、新たにオリジナルで付けた音楽も加え、演奏される。 なお、イスラム的な名前のオーカッサン(アルカシム=Alcazimに由来)、逆にフランス的な名前のニコレットからもほのめかされるように、この物語には「逆さまの世界」が一貫して流れるモチーフとなっている。 上演時間:約1時間半 >>サンプル音源(別窓でYouTube画面が開きます)


 ポンチュー伯の令嬢
13世紀フランスの散文物語。夫の近くで盗賊に暴行を受けた妻が、夫の殺害を計るという衝撃的な事件を発端として、夫とその妻のたどる数奇な運命。上演時間約1時間半。

 ヴェルジーの奥方
13世紀フランスの韻文物語。若い騎士と逢瀬を重ねるヴェルジーの奥方に訪れる不幸。上演時間約1時間半。

 ロバンとマリオン(抜粋)
13世紀のトルヴェールの1人、アダン・ド・ラ・アルの作った田園牧歌劇。完全な形で譜面とテキストが残っている貴重な作品。羊飼い娘マリオンと農民でバグパイプ吹きのロバンとの恋に、騎士が絡むコメディー的な内容。上演時間約20分。


 ハリネズミのハンス(グリム童話)
グリム童話自体は19世紀のものですが、この「ハリネズミのハンス」は起源をルネサンス期までにさかのぼれる可能性があります。ハリネズミの身体で生まれたハンスが、バグパイプ片手にたどる痛快な冒険の旅。上演時間約20分。>>サンプル音源(別窓でYouTube画面が開きます)


<中世の日本に題材をとったもの>

中世の日本にも西洋のジョングルールのような放浪の芸人・楽師が存在していました。彼らは、傀儡(くぐつ)、白拍子、巫女たちであり、民衆芸能・音楽を担っていたばかりでなく、宮中とも深く関連しており大変重要な存在です。ジョングルール・ボン・ミュジシャンでは、中世ヨーロッパだけでなく、中世の日本にも目を向け、いくつかを作品として演奏しています。(音楽は新たにオリジナルで付けています)

 梁塵秘抄
平安時代末期(12世紀)に後白河法皇が編纂させた歌謡集。当時の流行歌「今様」の集大成とされ、収められている歌には、白拍子や巫女など放浪の芸人が直接・間接に関わったと思われるものも多い。CD紹介ページ参照。>>サンプル音源「舞へ舞へ蝸牛(梁塵秘抄408)」(別窓でYouTube画面が開きます)


 ささやき竹(お伽草子)
 室町期の「お伽草子」に収録されている説話。同じモチーフをもつ話がフランス・ブルゴーニュ宮廷で編まれた「新百物語(Cent Nouvelles nouvelles)」にもあり、興味深い。ある破戒僧が美しい娘を見初めて自分のものにしようと、中空の筒(竹?)を使って母親の枕元で「毘沙門のお告げ」をささやく…。